この記事の想定読者

  • 積読はやはり良くないことだと思っていて、新しい本を買うたびに罪悪感を感じてしまう方。
  • 何とか積読を解消しようとしているが、なかなか積読消化が進まず焦燥感にかられている方。
  • 上記のような罪悪感、焦燥感を和らげるため、屁理屈でもよいので積読のもっともらしい言い訳を聞きたい方。

積読について認めるべき3つの事実

1.積読は読書家にとっての必然である

読書のプロセスは、ある本が視界に入る→興味を持つ→本を買う→読んで知識を得るという段階を踏むことだろう。つまり左にいくにしたがって原初的な、いわゆる裾野の部分となる。であるならば、常に購入した本 ≦ 読む本という量的関係になるはずだ。つまり、積読は必然なのである。問題となるのは積読率である。

2.積読してしまうことの罪悪感は持っておいたほうがよい

積読率が高ければ高いほど、未消化本が「ワタシヲヨンデ」と囁いてきそうで、そわそわした気分になってくるかもしれない。過激な積読擁護派学徒は「そもそも読みきれるわけはないのだからジャンジャン買って、堂々と積読すれば良い」と開き直るタイプの主張がある。しかしながら、この論には無理があると言わざるを得ない。理性的に考えるならば、積読には多くのマイナス面があることは否定できない事実であろうからだ。そういうことを全部無視しようとするこころみには認知のゆがみに陥る危険という危ういリスクが付きまとう。

3.積読しない方がよい本のジャンルが確かに存在する

積読をしない方がよいジャンルというものがあるのでここで列挙したい。

(1) 人気の文芸書の単行本。これはやめた方がよい。積読して数年経つと新装版や文庫が出てきて、いろいろアップデートされたりするので買い直したい気持ちになる。(と同時に慌ただしく過ぎ去った月日と歳を重ねた事実に愕然とさせられる)

たとえば、2012年刊行時に話題をさらった、ワシーリー・グロスマン『人生と運命』(全3巻・みすず書房)の新装版が、2022年8月10日発行予定だ。10年経って品切れということだが、早いものだ。もしかして、積読の方もいらっしゃるのではないだろうか。

(2) IT技術書。後述する「水圧」の意味はあるかもしれないが、これは賞味期限を過ぎると本当にゴミになってしまう。当然ながらリセール価値も低い。私自身、オライリー・ジャパンの○○入門という類をほとんど読まずに捨てたものがある。なぜなら新版が出てしまうからだ。

(3) 必要に迫られていない語学の参考書。おそらくリセールしやすいジャンルにはなるかもしれないが、まず活用されることはないだろう。Twitterには“#白水社課金”というパワーワードのハッシュタグがあるが、こういう芸当は語学専門家でもない人がマネして大やけどするだろう。

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積読の意義とは

ここでは積読の意義について7つ挙げていきたい。

1.読書を推進する「水圧」になる

読書には推進力が必要だ。積み上がった未読本は、ダムにたまった水のように読書の推進力をつける恰好の「水圧」として作用することだろう。

2.新規購入に慎重になるがゆえに見識を広げられる

積読が増えてくると、新規の購入には慎重になるだろう。購入を決める前にその本についてじっくり調べるようになる。検討の結果、購入に至らなかった本も含め、多くの情報がインプットされることになる。つまりこれら一連のプロセスが見識を広げるきっかけになるということだ。
※積読しないよう決断するほうがもっと慎重になるというツッコミは無しで。

3.自分の属性を強化できる

これは現代アートの価値でも話されることでもあるのだが、書物には人びとをしてその認識されるところの世界を拡張せしめるという役割がある。積読も、書棚も、タトゥーのような自身のアイデンティティの一部である。 たとえば「ロードスター乗り」のような所有物から人に乗り移る属性があるのと同じように、所有する書物が定める人の属性がある。たとえば「小林秀雄全集所有者」となればそれ自体で訴求力のあるキャラ設定となるだろう。

2022/09/10 記事 ナン・シェパード(Nan Shepherd)『いきている山』(The Living Mountain) 邦訳がついに刊行される予定!

4.書物にかかわる文化に貢献できる

上梓(じょうし)のタイミングがタイムリーであることは書物の本質的な価値ではない。みなさんは、文芸作品の翻訳本というものが、企画のはじまりから上梓までいったいどれくらいの年月がかるものかご存じだろうか。たまたま発売日が時事的にタイムリーになったとしたらそれは奇跡といえる。そもそもそういうタイムリーさで文芸作品の価値を判断してしまうのは好ましくない。タイムリーではないものの、熱量がある作品ならば上梓は歓迎すべきではないだろうか。そういう考え方が我が国の文化水準を押し上げることにもなろう。

5.他の読者にバトンを渡せる

紙の書籍は、積読を死蔵してしまってはダメだが、ゆくゆくは友人に譲ることもできるし、古本屋に売ることもできる。自分が読まなくても他者にバトンを渡せるのである。これはちょっとロマンを感じないだろうか。自分の夢を息子に託すというような。電子書籍ではそうはいかない。(そのうち譲渡可能で印税も著者に還元されるようなNFTのような電子書籍が普及するかもしれないが…)

6.プレミアがつくこともある

たまにだが、プレミアがつくことがある。たとえばこちらのハリー マーティンソン(Harry Martinson)のSF小説なんかは、なかなかのプレミアがついている。(ちなみに私は新品を購入して…これも積読である。いつかは読みたい)転売目的で購入したわけではないので今のところ売る気はない。

このことからも分かる通り、買っておかないとあとから買えなくなったり、手がとどかなくなったりする場合があるということでもある。中古本価格高騰については、以前、アリオスト『狂えるオルランド』の復刊情報の記事でも書いたとおりである。ただ、注意が必要なのは、版元が復刊したり、文庫化した瞬間に中古価格が暴落することだ。紙の本を投資材料にするのはあまり勝算が見込めるとは思えない。確かにマニアックな本がひょんなことでバズった瞬間は高値を付けるかもしれないが、出版社の緊急復刊は往々にしてびっくりするほど仕事が早いことが多い。

7.明日も生きようという原動力になる

これはちょっと大げさかもしれないが、もし読みかけの本があるならば途中で死んでしまいたくはないと思うのではないだろうか。もし積読があれば、読まずに死ねるかといういう思いも抱こうものではないだろうか。世の中には、この小説が最後の作品になるだろうと言いつつも結局書き続けている小説家がおり、最後のアニメ映画ですと言ってまた新しいアニメ映画を作ってしまう監督がいる。読書家にとって、人生最後の本など果たして選べるだろうか?そうであれば、読書家にとって積読があることは生命保険みたいなものかもしれない。

おまけ1 積読数年ののちに紐解いてよかった本

実は、この記事の執筆動機となったある作品がある。それは、『レイディ・オードリーの秘密』という推理小説の古典だ。新刊の時に買った記憶があるから購入は2014年のはず。そして読み始めたのは2022年であるから8年積読したことになる。2段組みで500頁クラスなのでなかなか思い切りが必要だが、読んでみると実に面白い。まだ僅かに新品も流通しているようす なのでご興味があればぜひチェックいただきたい。

おまけ2 サイン本は積読しても良い

サイン本は、それ自体一定の価値を持ちつづけるという意味で積読でもよいと思う。著者としては読んで欲しいだろうから逆説的ではあるが。読書人としては、くれぐれも投資材料にはしないでいただきたいという気持ちはある。

本屋Title(東京・荻窪) を覗けば意外なサイン本も見つかるかもしれない
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本屋Title WEB SHOP https://title-books.stores.jp/

基本的にサイン本とは本当のファン向けのサービスである。以前、ある大型書店に昼間のガラガラな時間帯に芥川賞の単行本(たしか楊逸の『時が滲む朝』だったか)を買いに行ったら、店員から『サイン本もありますが』と声をかけられた経験がある。

おまけ3 文学系YouTuberも積読について語っている

文学系YouTuberの先生方も、もちろん積読についてたびたび発言されている。ここでは有名なベルさん以外のチャンネルを紹介したい。

  • 純文学YouTuberつかっちゃんのチャンネル https://www.youtube.com/channel/UCutvzRcGtbBNhtGvGihHLjA
    岩波文庫(カバーあり)を片っ端から収集するYouTuber。積読についても言及していたりする。両手の指のリズミカルな動きが好き。

  • 文学YouTuber ちゅんちゅんチャンネル https://www.youtube.com/channel/UCeE9krvaHowZbqvYVr8yI4w
    ご夫婦揃っての読書好き。古文系か。パラフィン紙すら無い初版の岩波文庫の魅力を嬉しそうに語る。関西弁の語りが好き。

  • 文学系チャンネル【スケザネ図書館】 https://www.youtube.com/channel/UCLqjn__t2ORA0Yehvs1WzjA
    「小林秀雄全集所有者」というのはこのお方がモデル。「本の虫」という語幹がもたらすイメージの人物に限りなく近い。黒い帽子が好き。

※ Amazonのアソシエイトとして、ノカミシステム(野上智史)は適格販売により収入を得ています。

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