スコットランド作家ナン・シェパード(Anna ’Nan’ Shepherd, 1893-1981)の『いきている山』(The Living Mountain) 邦訳がみすず書房から2022年10月に刊行予定である。
この極めてローカルな山岳ノンフィクションは、1944執筆、1977の出版されたが、ほぼ注目されることのなかったが、ここ数年のうちに一気に注目を浴びることになったという。いまやナン・シェパードはスコットランドの5ポンド紙幣(2016-)になるまでになっている。
ここでやや脱線することをお許し願いたい。みすず書房の山岳小説というと真っ先に思い出すのはロジェ・フリゾン=ロッシュの『結ばれたロープ』である。(じつはこれ往年の『ザイルのトップ』の新訳である)山岳小説という枠にとどまらず、人生のアイロニー味を芳醇に含んだいとおしい傑作であった。やや横道に逸れたが、みすず書房は「人間と自然」というようなテーマをキュレーションさせては裏切らないという個人的信頼感があるのは本統だ。
もうひとつ、みすず書房というと、これは山岳小説という括りではないのだが、ハワード・ノーマンの『ノーザン・ライツ』という小説も良かった。身近なものの死というテーマを背景としつつも、過酷な大自然のなかの人生の悲哀を活写した、たえまなく五感をひりひりと刺激してくる文学である。こうした小説を掘り出して上梓することにかけてはやはりみすず書房の独壇場と言わざるを得ない。
さて、大きく迂回してしまったが、今日語るべきなのはシェパードの散文である。
本題のナン・シェパードの『いきている山』については、訳者が本作について滔々と語る1時間半以上のYouTube動画が出ている。見る限り、ちょっとやり過ぎなまでの美文の訳文に訳者自身がいささかハイになってしまっていると感じられるほど激アツなテンションが感じられる。
ちなみに訳者の経歴をみれば山岳文学の研究家ということだ。なるほどそうでもない限りとてもではないがキャッチしえなかったであろうアンテナの張りっぷりである。
こちらのYouTube動画。そもそも仲良しド文系らが暮れなずむ野良でパンチある言霊の応酬を繰り広げる雰囲気は見ていてめちゃめちゃ楽しげである。この動画の再生回数がなんど本稿執筆時点で500回台なので、これを見ているあなたは相当「尖った人」であることを自覚なさってもよいと具申(ぐしん)もうしあげたい。(日本には1億2千万人もいるのにたった500回超ですよ!)
「感覚の〈生〉を生きる」ナン・シェパード『The Living Mountain』を語る ↓ ↓ ↓
もちろん本稿執筆時点では、出版前なので、まだ読んでいないのだが、わが数多ある読書経験の嗅覚からして大いに期待している一冊である。客観的には、海外で既に高い評価を受けていること。多方面のアーティストに多大なインスピレーションを与えているといわれており、ポテンシャル十分な作品であると思われる。
いやしくも海外文学ファンを自称するならば、たとえ日本国内でいまいち話題にならなくても初版をゲットして本棚に潜めておきたい一冊であるように思う。
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